「実況されたのに、ダウンロード数はほとんど変わらなかった」
「むしろ、低評価コメントだけが目についた」
そんな経験をしたゲーム制作者は、決して少なくありません。
昨今では、公開した「フリーゲーム」や「インディーズゲーム」が実況される機会も多くなりました。ゲーム制作の解説をしていると、「あの有名実況者に実況してもらうことを目標にしている」という声を頂く機会もあり、プレイ数や売上だけではない新しい形での目標も構築できるという点では過去にない面白い時代になったのではないかと感じます。
そんなゲーム実況ですが、よく見る声に「ゲーム実況されたのに全然プレイ数が伸びない」というお話です。プレイ数が伸びない上に、取り上げられ方においても印象が悪いように扱われてしまった。場合によっては、実況内容への不満や誤解が発生してしまい、制作者・実況者・視聴者の誰も得をしない結果になってしまうこともあります。
ゲーム制作を先に活動しつつ、配信活動も経験している傍ら、この問題の根幹には、「ゲーム制作者」と「実況者サイド」との視点の違いにも要因があるのではないかと感じるようになりました。また、適切なゲーム実況の活用方法についても自分なりに答えがでてきました。
そこで、この記事では類似例を取り上げながら、まずは「なぜゲーム実況でプレイ数が伸びないのか」という問題について考えていきます。さらにゲーム制作者として「自作品実況動画をどう活用するのか」という点について、実況・ゲーム制作両方の経験をもとにゲーム制作者向けへ持論を共有していきます。
結論から言えば、
・「目的が違うので期待はしすぎない」
→視聴者は遊ぶゲームを探すために見ているのではない
・「分母が重要」
→行動してくれる見込みの分母をいかに増やすかが大事
・「コアファン化を狙う」
→ゲームが大好きなファンになってもらう
・「プレイ数よりも他の方向に改善する」
→検証や作品改善に役立てる
を狙いましょうというお話とそれらを踏まえた方法論例の紹介です。ゲーム実況をする前の過去の自分もなぜ「ゲーム実況でプレイ数が伸びないのか」の視点が足りなかったので、過去の自分のような方向けに作成しています。役立ちそうなところだけご活用下さい。
なぜ「ゲーム実況でプレイ数が伸びない」のか
よく話題になる「ゲーム実況されたのにプレイ数が伸びない」問題の要因を考えていきます。結論から言えば、「目的が違うから」という理由です。実況を見て「遊んでみよう」と思う人もいます。しかしそれは、全体から見れば少数派です。
ゲーム実況の視聴者が実況を見る目的は大きく分け3つ
ゲーム実況の視聴者を理解することから始めてみましょう。
ゲーム実況を見に来る視聴者の目的は、大きく3方向にわかれます。
- ゲーム実況者が好き-実況者の会話が見たい、実況者の反応が見たい
- 取り上げる題材目的- ◯◯のゲームが好きだったから見る
- 反応がイメージできる - 苦しむ、悲鳴など面白い反応が期待できそう
具体的に、人気動画の傾向を分析してみましょう。
例えば登録者数やコアなファンがついている配信の視聴数が多いのは「ゲーム実況者が好き」だからですよね。新作や名作の実況が多いのは「取り上げる題材」、ホラーや高難易度で苦しむ配信が人気なのは「反応がイメージできる」という感じです。
無名ゲームは「題材目的」には該当しない
では、無名のフリーゲーム実況を考えましょう。そもそも無名なので「題材目的」に見に来てくれる可能性は低いでしょう。また、「題材目的」であればプレイ済みや認知済みの方が多く、プレイ数増加にはなかなか直結しません。
となると、見込みプレイヤーは「ゲーム実況者が好き」「反応がイメージできる」目的で来た視聴者になります。
テレビ番組で考えると手に取らない理由の壁
では、「ゲーム実況者目的」や「反応がイメージできる」の視聴者を考えていきましょう。これらの視聴者は、配信を見たから手に取るかといえば「難しい」といえます。
彼らの目的は、遊ぶことではなく「見る」ことです。いかに良いゲームであっても、あくまで視聴者が重視している点は演者(実況者や実況者の反応)です。そもそも目的が違うので、なかなか心を動かすのは難しいです。
「いやいや、面白いゲームだと感じたら手に取ってくれるでしょ」
そう感じる方も多いかもしれません。テレビのグルメ番組で例えてみるといいかも知れません。

アナタは大好きな俳優さんを見るために、グルメ番組を見ていました。その番組では、俳優さんが毎回「お取り寄せグルメ」を美味しそうに食べています。今日も素敵な笑顔です。
うん、大好きな人が美味しそうに食べている。自分も食べてみようかな……「お取り寄せグルメ」をポチッ……なんてこと、毎回やっていますか?基本は「美味しそうだったな」「俳優さんはいい笑顔だった!」で終わるケースが多いのではないでしょうか。

同じものを食べる!まで行くことは少ない
いやいや、お取り寄せグルメって金がかかるし、ハードルが高いからでしょと思ったアナタ。美味しそうなインスタントラーメンのアレンジレシピが紹介されたとしても、毎回やっている方は少ないですよね。
「反応がイメージできる」ケースも考えてみましょう。お笑い芸人の方が、近くのお化け屋敷でビビりまくる面白いバラエティ番組を見ました。お笑い芸人さん面白いと思うことはありますが、「自分もお化け屋敷に行こう!」と思うことは、そんなに無いはずです。
違う興味で見に来ている方を行動に移すのは難しい!
このように、そもそもゲーム実況でもテレビ番組だろうとも、「違う興味」で見に来ているわけなので、そういった方の行動に移すことは難しいと覚えておいて下さい。

どんなに作品自体や演者さんのプレイが良くて心が響いたとしても、そこから実際に行動に取るというのはかなりハードルの高い行為なわけなのです。この現実をしっかりと認識しておけば、まずは「ゲーム実況されればプレイ数がぐんと伸びる」ということは理想論であると認識ができ、過度な期待にはならないはずです。
全く効果がないわけではない!「塵も積もれば山となる」精神が重要
とはいえ、ここで重要なのは「過度な期待は禁物」ということです。効果がまったくないわけではありません。
先程、テレビのイメージを紹介しました。取り上げた内容を毎回実行するという方はいないと思いますが、誰でも一度は『テレビ番組で見たお店を訪ねてみた』『CMで美味しいって紹介されていた商品を手に取った』『アレンジレシピを作ってみた』という機会はあるはずです。行動に移してもらうことは難しいことですが、行動を移す可能性がないわけではありません。(さらに言えば行動に移すまでにタイムラグもあったりします)
ゲーム実況はこの「少数のユーザー」を狙っていくものだと考えて下さい。これはゲーム実況だけではありません。ウェブの広告だろうが、テレビのCMだろうが、元々違う目的のユーザーに商品を取ってもらう宣伝と同じです。
そして重要なのは、この「少数」がしっかり遊んでくれるファンになりやすい層だという点です。
プレイ数が伸びなくても意味がある、ゲーム実況の活用視点
ここまで、「ゲーム実況が多大なプレイ数に直結」しない理由を通じ、「塵も積もれば山となる」ような宣伝方法だと取り上げてきました。では、ゲーム実況を使ったPRでは、どのようなことを意識していけばいいのでしょうか。
プレイヤー数が決まる計算式を意識する
実況による効果は「運」ではなく、ほぼ数式で説明できます。
実況によるプレイヤー数 = 動画閲覧数 x ゲームへのアクセス確率 x ゲームページのCVR率
CVR率というのは大雑把に解説すると、成果につながる確率です。ゲームプレイしてもらうという成果で考えれば、100人がゲームページに来てくれて10人遊んだら10%みたいな感じですね。WEB広告では一般的に2~3%(高いカテゴリでも10%)と言われており、ゲーム界隈だとSteamのプレイリストに対するCVRが中央値0.17(→参考) というデータもあります。
ここで重要なのは『掛け算』であることです。例えばいかに面白そうと思ってプレイをしようと思ってゲームページにアクセスしてくれたとしても、「実際にゲームを遊べるページの場所がわからない」等でそもそもCVR率が0.1%とかであれば、実況側の問題と言うよりも制作者側の問題で伸びないという可能性もあるのです。場合によっては実況よりも別の方向で見直すべき場合もあるということは念頭に置いておきましょう。
もちろん、これは「制作者が悪い」という話ではありません。実況という外部要因だけでなく、自分で改善できるポイントも多い、という視点を持っておくことが大切です。
実況で取り上げられる=プレイヤーが一人増える
また、「ゲーム実況」で取り上げられるということは、「プレイヤーが一人増えた」ということでもあります。
実況動画自体でプレイ数は伸びなかったとしても、実際に実況者がゲームを遊んだということはプレイヤーが一人増えているということでもあります。例えば100人しかプレイ数がないゲームで10人が実況してくれたら10%プレイ数が伸びたということでもあります。
実況されればプレイ数は増加しているとプラス思考に考えるのもいいかも知れません。
実況者や視聴者独自の口コミに期待する
ゲーム実況独自の文化に期待するというのも選択肢の一つです。次のような実況には文化もあります。
・配信者同士のコラボ・雑談で話題になる
・配信者用サーバーでおすすめとして共有される
・視聴者から別の実況者へリクエストされる
特定のジャンルに強い実況者に遊んでもらったり、交流が広そうな実況者さんに遊んでもらう、リクエストなどの口コミが多く書き込まれる配信をやっている実況者を狙うと言った方法も有効かもしれません。
長期的に愛してくれるコアユーザー化を狙う
プレイ数増加とは違う視点となりますが、既存プレイヤーのコアユーザー化を狙うという方法も有効と考えます。
単純接触効果(ザイオンス効果)というのをご存知でしょうか?人は繰り返し接触することで親近感や好感度が高まると言われている効果です。最初はなんとも思わなかったけど、CMで同じゲームを見かけているうちに面白そうに見えてしまったみたいなことはありませんか?
繰り返し色々な実況で取り上げてもらい、作品に触れてもらう、語り会う機会を増やすことで、より1つの作品を愛してもらえるかも知れません。繰り返し作品に触れてもらえれば、面白いゲームをいつも出すクリエイターとして将来の作品のプレイ数に貢献してくれるかも知れません。

スポーツ観戦する人=プレイヤーではないけど、話題でチーム愛や選手愛が育つことも多い
多様な意見をもらうテストプレイとして割り切る
最後はテストプレイとして割り切るという意識もオススメです。
ゲーム実況はその時に思ったこと、考えたことを語ってくれます。自分が狙った時の反応が見れれば、うまくいっているということです。逆に同じ箇所で躓く、内容に詰まることが多い場合は、ゲーム中の誘導や台詞回しがうまくいっていないということでもあります。
テストプレイを募集する場合、どうしてもゲームが得意な方、公開するゲームカテゴリに慣れている方が多く集まってしまうこともあります。実況は色々なタイプのプレイヤーが遊ぶところを直接見れ、思わぬ改善につながることもあるはずです。
プレイ数が伸びなかった場合も、次回作の技術を高めるために活用していきましょう。

自分の体験談ですが、制限時間が始まるタイミングがわかりづらい様子の実況が多く改善に繋げました
ゲーム実況を自作ゲームにつなげる施策
では、ゲーム実況を自作品向上につなげるには、具体的にどのようなことがいいのでしょうか?「再現性があり、制作者側でコントロールできる施策」に絞って紹介します。
大手実況者にダメ元でプレスリリースを送る|分母を最大化する一発狙い
先に紹介の通り、実況によるプレイヤー数は「動画閲覧数 x ゲームへのアクセス確率 x ゲームページのCVR率」で決まります。固定ファンのついている実況者であれば、動画閲覧数という掛け算の一要素が大きくなるため、やはり大手実況者による実況は効果が見込めます。
大手実況者や事務所にプレスリリースを送ってみるといった方法は有効でしょう。ただし、採用される可能性は低いです。ホームランを狙うつもりで、ダメ元で送るといったことを検討するといいでしょう。実況されたとしても「目的は違う」前提で見られていることはしっかりと理解しておきましょう。
とにかく多くの実況者に遊んでもらう|確実に成果が積み上がる方法
逆に小規模実況者の多くに遊んでもらうように動くという方法もオススメです。例え視聴者50人の実況者でも、100人遊んでくれたとすれば5000人が見てくれているわけです。遊んでくれる確率が1%だったとしても、プレイヤー数は50人も増えます。
(※あくまで単純化した仮定の数字ですが、考え方としてはこの通りです。)
また、動画の視聴が増えれば作品への接触回数も増え、視聴者がプレイヤーとしてコアなファン化になることも狙えます。良い口コミに繋がったり、次作品を楽しみにしてくれる強いファンになってくれる可能性も増えるでしょう。
そして何より、実況されれば1人はプレイ数が増えます。改善につながるプレイ記録としても活用できるため、確実に成果の出る方法であることを忘れてはいけません。
配信を意識した資料の配布 | 動画化のハードルを下げる
動画用の資料を用意することで動画化のハードルを下げることにも繋がります。次のような情報が役立つかも知れません。
・プレイ時間を明記(動画規模の逆算ができる)
・攻略チャートを用意する(詰まった時でも続けやすい)
・動画用ロゴや立ち絵の配布(サムネ制作の手間を減らす)
多くの実況者は、視聴者を意識しています。情報の少ない自作ゲームの場合、これはどれぐらいの動画規模になるのか、動画や配信としてコンテンツ化できるか頭に入れているはずです。試しプレイで終わってしまえば、動画化されない可能性もあります。
プレイ時間や攻略チャートを提示することで、配信や動画の回数を計画できたり、詰まって動画がグダるという視点からの動画化ハードルを下げられます。
また、動画や配信にはサムネがつきもの。サムネのデキが視聴にも響きます。ロゴや立ち絵を配布することで良質なサムネに繋がり、結果として視聴数に貢献する可能性もあります。意図しない誤解を招くサムネを防ぎやすくなる点もメリットです。
配信を自主的な発信機会や、コンテンツに活用する
実況を「自発宣伝のタイミングとして拡散する材料」として活用するのもオススメです。自作ゲームを自然に自発PRする機会は「作品を公開した」「バージョンアップした」ときぐらいです。
実況として取り上げられたことを「ニュース」として取り扱うことで、自然な自発的PRに活用できます。また、実況は第三者から取り上げられるという非当事者が主体となります。第三者からの評価として紹介できたり、「たくさん遊ばれている=多数に評価されている」という社会的証明からのプレイ数増加も狙えるかも知れません。

第三者の声は選ぶ時の目安になることも。
また、公式HPを作成する場合には動画サイトの動画埋め込みによる共有機能を使って自サイトのコンテンツとして活用してしまうという方法も取れます。こちらはサイトのコンテンツを増やすという視点にもなります。あくまで副次的な効果としてサイトの滞在時間はサイトの評価が高くなるのではないか(諸説あり)という仮説もあります。実況動画自体の再生数にも貢献できます。
ゲーム実況ではなくゲーム紹介向けに告知する
最後に少し視点を変えた方法の紹介です。プレイ数を増やすという観点であれば「ゲーム実況者」ではなく「ゲーム紹介向け」にプレスリリースを送るという方法もありです。
ゲーム実況は、あくまでゲームの実況や反応を見に来ています。先述の通り視聴目的が根本的に違うケースが多いです。
一方で「ゲーム紹介」は「新しいゲームの内容を知りたい」という目的で見る方が多いはずです。「面白い」と思ったら、行動に移してくれるはずです。
特に、ゲーム紹介系のコンテンツはランキングやオススメまとめでお墨付きを貰えることができれば、よりプレイ見込みのある視聴者にアプローチできることがあります。
ゲーム実況を理解してうまく活用しよう
ここまで、ゲーム実況と制作両面を行っている側面から、どうゲーム制作者がゲーム実況を活用することができるかを考えてみました。
ゲーム実況を始め、外部を使って宣伝するという行為は非常に難しいです。お金を出して広告を出したけど、効果がなかった……そんな話は良くあります。ゲーム実況に関わらず、宣伝というものは見る側を理解し、効果的なアプローチをしなければうまくいかないことも多いです。
まずは一度、実況された動画を「数字」としてではなく、作品の質向上やPR活動の改善「素材」として眺めてみてください。
ゲーム実況はその点、無料で色々と試すこともできます。今回紹介した例をきっかけに、効果的な活用方法なども考えてみるのはいかがでしょうか?
*本記事はゲーム制作アドベントカレンダー Advent Calendar 2025参加の記事です。主催のシトラス様、良い機会をありがとうございます。他作者様の記事も是非ご視聴下さい。